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第5章 結言

本研究部会においては、海洋環境保全および海難事故防止の観点から、載荷状態の違いが乾貨物船の運航性能に及ぼす影響を考慮した運航性能の評価法を確立することを目指して、任意の載荷状態における運航性能の推定法、ならびに載荷状態の違いが運航性能に及ぼす影響について、3年間にわたって調査・研究を行った。
平成5年度は乾貨物船について載荷状態と運航性能の相関を調べるデータを得ることを目的として、実船試験の準備・検討作業を行った。また、模型船を対象として船体に作用する流体力を計測し、各々の計測値を基に求めた流体力微係数を使って推定した流体力の回帰曲線を比較した結果、回頭角速度が大きい領域において両者の結果に若干差が生じる結果となった。これは、プロペラや舵の有無や試験方法の差に起因するものと考えられる。また、実用的な精度で操縦性能の推定を行うためには、試運転時における外乱の影響を除去した形でデータを整理、解析することが必要であることを示した。続いて、平成6年度は船長177mのバルクキャリア(A船)を対象に満載状態における旋回試験、緊急停止性能試験など各種の試験を実施し、模型船についても同種の自由航走模型試験を実施した。また、平成5年度に計測を行った流体力を用いて操縦運動のシミュレーション計算を行い、試験結果との比較・検討を行った。最終年度は、船長215mのバルクキャリア(B船)を対象として実船試験を行い、A鉛およびB船の実船試験結果とシミュレーション計算結果との比較を行った。その結果、旋回試験については載荷状態の変化に対する旋回性能の変化を比較的精度良く推定できているものと考えられる。さらに、本研究で得られた同一船に対するバラスト状態および満載状態の実船試験結果のデータを利用して、乾貨物船の場合に通常行われるバラスト状態における試運転データを使って、満載状態における運航性能を推定する方法について検討を行った。その結果、満載状態における運航性能の推定法として、操縦運動推定のための数学モデルに含まれる干渉係数γや船位置における有効伴流率ωROに着目して、バラスト状態における試運転結果を基に推定を行う方法を示した。
以上、本研究部会においては、乾貨物船の任意の載荷状態の運航性能を推定する方法について検討を行った。その結果、本研究部会において得られた研究成果を用いることにより、ここで調査・研究の対象とした通常の乾貨物船型については、バラスト状態において実施された試運転データを利用して、満載状態における運航性能を推定することが可能であるものと考えられる。しかしながら、ここで行った検討はあくまでも極めて数少ないデータを基に行われたものであり、今後数多くの船舶に対するデータの収集・解析を行って検討する必要があることは言うまでもない。乾貨物船の運航性能の推定精度向上のためには、船体に作用する流体力を精度良く推定することが不可欠であり、また数値シミュレーション計算において用いる数学モデル自体の精度の向上も必要である。そのためには、実船試験による計測結果に含まれる外乱影響の除去や計側方法等を含めた計測精度の向上に関する検討が必要であるものと考えられる。従って、本研究部会において検討を行った内容は、乾貨物船の運航性能の推定法確立のための第一歩を踏み出したものと考えられるが、以上述べたような問題点が解決されれば、本研究部会における研究成果は任意の載荷状態における乾貨物船の運航性能を推定する上で極めて有用であるものと思われる。
なお、実船試験ならびに模型試験をはじめ、本調査・研究を実施するにあたり、関係各位に感謝する次第である。

 

 

 

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